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最高裁判所第三小法廷 昭和25年(オ)117号 判決

兵庫県三原郡福良町字新道甲ノ一三三〇番地ノ二

上告人

奥井しま

同所

上告人

津田武市

兵庫県三原郡福良町乙二四一番地

被上告人

由井敏雄

右当事者間の家屋明渡請求事件について、大阪高等裁判所が昭和二五年一月二四日言渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨上告の申立があつた、よつて当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人奥井しま、同津田武市の上告理由第一点について。

論旨は、本件家屋の賃借人が上告人奥井しまであることを争う被上告人の主張は失当であるというに帰するが、原判決は「榎本喜市死亡後被控訴人(上告人)奥井しまにおいて賃貸人であつた浦瀨昌人から本件家屋を従前とおりの約定で賃借し」た事実を認定して所論の被上告人の主張を排斥しているのである。されば論旨は、原判決を正解しないものであつて理由がないこと明らかである。

同第二点について。

所論転貸借承諾の事実について上告人津田武市の申請した証人阿部英男は唯一の証拠方法ではないから、かかる場合に証拠調を許容するかどうかは、事実審たる原裁判所の自由に定め得るところである。それゆえ、原審が上告人津田武市申請の右証拠の右証拠調をしなかつたからといつて原審の手続に違法があるということはできない。

同第三点について。

賃借家屋の間貸について特別の事情があるため間借人の使用関係は事実上のものにすぎず法律上の権利関係が設定されたものとは認め得られないような場合がないわけではないが、それだからといつて現下の住宅事情の下においてもすべての間貸が民法六一二条の転貸借に当らないということはできない。本件転貸借に関し右のような特別事情があることについては原審において上告人等の少しも主張しないところであるばかりでなく、原判決の認定した事実によれば「被控訴人(上告人)奥井しまは昭和二二年四月頃被控訴人(上告人)津田武市に対し本件家屋(建坪一六坪二階一〇坪)の造作を代金一万円で譲渡すると共に右家屋のうち二階一〇畳一室を除きその余の家屋全部を賃料一ケ月四〇円にて転貸し」たというのであるから、原判決がこれをもつて民法六一二条にいわゆる転貸に外ならないものとし、右転貸借につき賃貸人の承諾のない事実を確定した上被上告人に賃貸借の解除権のあることを判示したのは正当であつて論旨は理由がない。

同第四点について。

所論甲号各証の成立を上告人等が原審において認めたことは、記録上明らかであるのみならず、甲第三号証同第五号証は原審が事実認定の資料として採用しなかつたところであり、甲第二号証ノ一は上告人奥井しまが本件家屋の賃借人であるとの上告人等の主張事実を認定する一資料としているに過ぎないのであつて、原審の所論証拠の採否については違法と認むべきものはない。

よつて、本件上告を理由ないものと認め、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致した意見により主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島保 裁判官 河村又介)

昭和二五年(オ)第一一七号

上告人 津田武市

同 奥井しま

被上告人 由井敏雄

右上告人二名の上告理由

第一、本件の正当なる借家主の所在の争点について、前家主浦瀨昌人は従来本件家屋の賃借人であつた榎本喜市は昭和二十年十二月九日死亡したので其の当時その妻で有つた上告人奥井しまがその儘右賃借人たる地位を承継したが昭和二十一年四月右喜市の家督相続人である榎本武資が復員して来たので賃貸人であつた浦瀨昌人は右武資に対し本件家屋を賃料を一ケ月五十円期間同年十二月末までの約定で賃貸したと主張して居る。併し上告人の昭和二十三年三月二十三日並びに同年十一月二十二日の二回に互る準備書面にも詳細に申述べた通り、武資は応召前より別居生活を営み居たもので父喜市死亡当時は武資は生死不明の状態にあつた故当時喜市の妻で家の主宰者である奥井しまが本件家屋の賃借権を承継したことは前家主浦瀨昌人も認めて居るのであります。然るに昭和二十一年四月喜市の家督相続人榎本武資が復員して来たので賃貸人で有つた浦瀨昌人は前賃借権を承継した奥井しまに対し何等の通告を与えず武資と本件家屋の賃貸借の約定をしたと云うので有りますが、仮りにこの事が事実と致しましても先に奥井しまに賃借権の承継を認めて居り乍ら奥井しまに対し何等の通告もせず一方的に武資が復員して来たから武資と賃貸借約定した故奥井しまには関係ないと云うことは不法と存じますから上告の一つの理由と致します。殊に武資は家督相続人では有りますが事実上別居し喜市死亡後は其の妻奥井しまが家の主宰者として家を維持して居たもので有ります。借家権の承継の如きは其の家の主宰者即ち維持者がなすのが本質でないかと存じます。

第二、上告人奥井しまが、津田武市に本件家屋の転貸借の件には賃貸人で有る前家主浦瀨昌人の承諾の有無の争点に付て第二審判決理由によれば『被控訴人等は右転貸借について賃貸である浦瀨昌人の承諾を得たと主張するけれどもこの点に関する原審並びに当審証人前野武子の証言及び前顕被控訴人両名の供述は前顕証人浦瀨まきゑの証言を対比し措信しがたく他に右事実を認めるに足る確証がない』と理由つけられて居りますが、上告人津田武市より昭和二十三年三月二十三日提出せる準備書面中『前家主浦瀨昌人と被告津田武市の関係』の項にも明記せる通り前家主浦瀨昌人より転貸借を承諾の言質を得たことに付て之を立証すべき証人兵庫県三原郡福良町中山甲六二四番地ノ四阿部英男なるものを第二審に申請したるに如何なる理由か却下せられたのであります。第二審に於て被上告人側の証人五名(延六名)共全部採用せられたるに上告人側証人二名の申請に対し上告人にとつて最も重要なる前家主との転貸借承諾の有無を裏付けなす証人阿部の却下せられたことは確に裁判の公平を維持したものと認められないので有ります。

第三、被上告人は昭和二十四年十二月二十一日附準備書面を以て上告人奥井しまに対し本件家屋の無断転貸を理由として予備的請求として本件賃貸契約解除の意思表示をなしたるに対し之を採用せられ上告人奥井しまは右書面到達の昭和二十四年十一月二十六日限り賃貸借解除せられたものであると断定せられましたが斯る解除の裁定は不法と認めます。即ち奥井しまは津田武市に対しては間室の多少に拘らず結果に於て間貸であり家主の承諾なく無断で間貸が認めないと云うのであれば正条に津田武市の立除を命ずべきが当然で奥井しをの賃借権に及ぼすものでない。現代間貸しに権利金を取り又借家の大部分を転貸して居るものの多い事は現代日本の住宅事情として法も当然認むべきであり又社会の常識であります。故に奥井しまに対する本件家屋の賃貸借契約の解除の判決は不法であります。

第四、第二審判決書事実の項の内証拠に錯誤の点を認めます。甲証第二、第三、第五号の各証拠共其の成立を認めたと判定を下されて居りますが上告人は之を認めたことはないので有ります。甲第二号証一、二、三(催告状)は配達証明並びに内容証明にて受領したることを認めたに過ぎず、其の文面内容の事項に相違なき事を認めたものではないので有ります。又甲第三号証も福良町長坂本琢郎の証明したる証明書に相違なきことを認めたもので証明事項は不実なる届出による事項で当時正当なる賃借人である奥井しまが借家届をなすべきを店の問借をしていた村濱正男が自分が賃借人である如く窃かに(本件家屋の賃借権を乗取る目的の準備として)不実の届出をなしたるもので有つて当時法廷で此の証明書に相違ないかと示された故上告人等は町長の発行した証明書に相違なきことを認めたもので証明事項を認めたものではありません。甲第五号証の証拠に付ても同様福良町新道会々長印部尚二郎の証明したるものに相違なきことを認めたものであつて固より証明事項に相違あり否認するのであります。

尚本証拠物の如きものを採用することは不当と存じます。政令十五号により部落会町内会の解散を命じられて居るに拘らず町内会長名を以て発給せられたる証明書を採用することは裁判所自から部落会町内会を認めることになり、斯る証明書の採用は不法で有ると存じます。

最後に申上げますが、上告人等は元より法に不明のものであります以上申述べますことは法的に上告の理由になるかならないかは存じませんが、私達は飽くまで正義を信じて居るもので有ります。巷間耳にすることですが民事裁判は能い弁護士に依頼せねば駄目だとよく聞いて居ります。併し今私等にそんな弁護士を頼む資力もありません。と申して此の儘屈伏することは明日からの死活問題に及ぼす切実な問題で有ります。因つて正義に拠つて再審を求めるもので有ります。

以上

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